設計・ものづくり

なぜ鏡は上下は反対にならない?左右対称と重力、中心線の話

私の設計人生も20年を迎えます。一般の方が設計と言って思い浮かべるのは家の間取り図ではないかと思います。いわゆる建築士というやつです。一方で私が専門としているのは機械設計と言いまして、代表的なのは車や船などの乗り物であったり、家電やスマホ、時計といったものや産業用のロボットや精密機械などの設計を扱うものになります。

建築図面と機械図面では表記方法や細かな違いはあるものの、造形の立体的なイメージを図面から読み取る部分については同じになります。新築を建てられた方で、建築図面を見たことある方は一瞬戸惑うかと思いますが、寸法がミリ表記で書かれている点なんかも同じです。

10年ひと昔といわれるのに対して、さらにひと昔前とは時の流れにびっくりしてしまうのですが、私は20年前の実務経験開始時から3D-CADという三次元のモデルを作成して図面を書いていくパソコンツールで設計をしています。我が家の新築についても、設計段階で三次元に起こして3Dのビューデータを見させていただきましたが、建築設計としてはまだまだ3Dで一(いち)から設計をするということはしていないようです。そのあたりの理由なんかも記事にしていけたらなと考えています。とは言え、どこぞの国で3Dプリンターで建てられた家が話題となりましたが、さすがにあれは3次元モデルを作成しそのデータで造形をしているものとなりますし、いずれもっと多くの家やビルなども3Dで設計されるようになるでしょう。

前置きが長くなってしまいましたが、もう少しだけ付け足しますと、設計とは、誰が見ても同じ造形を認識できて有形の”モノ”を制作できるように、頭の中のイメージを図面というルールのある記載方法の中で具現化することと定義できます。広い意味では図面に限らず仕様書やレシピといった書類を作成する行為を含むこともあります。

個人的な見解としては、口頭による伝達も立派な設計だと捉えていますので、私的には原始時代の石器を作っていた人も設計者の仲間となります。一般的には鉛筆で図面を引いていた頃からを設計者と位置付けているのかなと思います。ジブリ映画の”風立ちぬ”の主人公モデル堀越次郎さんが大先輩にあたります。

手書きの図面とパソコンを使った図面の話や、2次元設計と3次元設計の話は別の記事に記載するとして、今回はその設計における中心線にまつわる話をしたいと思います。

ここからが本題、”もの”を設計するにあたり、一番大切なのは何だと思われますか?対称物の機能や性能、形や寸法ではないか、と思われがちですが、プロの設計者は中心線が最も大切であると答えます。白紙の図面に中心線をかけたら8割設計は完了している、とまで言われるほどです。手書きで図面を書いていた時代の話でしょ、と、3次元モデルでしか設計してこなかった私にとってはチンプンカンプンな格言であったのですが、今ではその意味が十分すぎるほど分かります。

皆さんも今、身の回りにあるものを手に取って改めて眺めてみてください。コップ、ボールペン、スマホ、眼鏡、、、そのほとんどのものが左右対称に作られているかと思います。そんなの当たり前だろと言いたくなるでしょうが、なぜ左右対称のものが世の中にこんなにも溢れている理由を考えたことのある人は少ないのではないでしょうか?

また、鏡を見た際に左右が反対になるのに、なぜ上下は反対にならないのか、気になったことはないでしょうか?

その理由は重力なのです。人も動物も植物も、身の回りのものでさえ、地球上の全てが重力を受けて存在しています。そのため、物が落ちる方向が下、上に行くには重力に逆らう、と勝手に認識しているのです。人や動物であれば足がある方が下で頭が上、植物であれば根っこが下で葉っぱが上、ものであれば設置している面が下、反対側が上という感じです。お気づきになれた方もいらっしゃると思いますが、上下に対して左右は重力に対して均等に影響を受けているため、万物左右対称に出来上がったというのが左右対称のものがあふれている理由となります。

鏡については少し理解が難しいのですが、鏡に映った世界をのぞいているのは人間であり、その像を判別する人間が勝手に上下を固定して認知してしまい、対象である右と左が反転していると判断していると解釈できるかと思います。

美男美女の条件は左右対称の顔をもつこと、なんて言われますが、美しい人だけでなく、重力のある地球に存在する全てのものが左右対称であることが美しいのです。

図面の中心線の話に戻すと、我々設計者は美しいものを設計しようとしています。そのためにはできる限り左右対称のものを造形しようと心がけます。そのために中心線というものが大切になってくるのです。他にも中心線の大切さは色々とありますが、個人的には左右対称が美しいという捉え方を中心線に込めています。

こんなことを考えながら日々設計をしていまして、ついつい、小さなことに対してなぜだろうとついつい考えてしまいます。ものづくりをされている方は、共感を持っていただけるのではないかなぁ、と勝手に想像しています。

ABOUT ME
ゆうため
1978年生まれ 首都圏出身 地方都市在住 技術者として一部上場企業で20年勤務 独立めざして中小企業へ転職 コンサルティング会社からロボット会社を経て起業独立