設計・ものづくり

一品ものと量産の違い

20数年前に、入社したての私にとって、「大きな設備用の装置と手のひらで使う機器、設計や生産するときに何が違うのか?」という一つの疑問がありました。

生産技術の先輩社員にこの質問をぶつけてみると、「ハンドリングに必要なサイズ感の違いはあるが、基本的には同じである」というコメントでした。

ものづくりにおいては、サイズ感の違いよりも、もっと大きな違いが存在する、今回はそんな話です。

プロとアマチュアの違い

機械設計者としてキャリアをスタートさせて2年ほど経った冬の寒い時期、地域の工業会が主催する設計セミナーに参加しました。

週に2回で3ヵ月ほどのカリキュラムだったように記憶していますが、その講義の中で今でも覚えているのが「プロとアマチュアの違い」というものです。

ある企業のベテラン機械設計者の講義だったのですが、その講義の講師は、たまたま私の大学時代の製図の先生でもあった方というのもあり、なおさら記憶に鮮明に残っているのだと思います。

先生の言うアマチュアは、学術的ないわゆる「理学」を追求研究者として捉えており、それに対して機械設計者は品質を求める「工学」であるということが前提の話でした。

おそらく、出典は品質工学からだとは思うのですが、下記のような違いを記載したプリント一枚を配られて、設計者が心得る「プロとは」を説明されていました。

・N=1を求めるのがアマチュア、プロはN=∞を想定する

・アマチュアが大切にするのがチャンピオンデータ、プロが大切なのはワーストデータ

・アマチュアは高見だけをめざして、プロは狙ったところをめざす

・アマチュアはバラつきを嫌うが、プロはバラつきをコントロールしようとする

というような類の、プロとアマチュア、つまり大学の研究と、企業のものづくりを比較した文言を並べたものでしたが、若かりし私にとっては、まさに目からうろこの内容でした。

一時期、私も新入社員への教育でこのような内容のことを伝えていましたし、今でも基本的な心得は、このプロアマ論に沿って活動している、といっても過言ではありません。

一品ものを扱うプロもいらっしゃいますので、少し言い方を変えて、「プロは製品ライフサイクルを考えてものづくりをする」となる、と考えるといいかもしれません。

リピート品の難しさ

ものづくりをしていると難しいのが、一品ものでもなく、量産品でもない、リピート品の扱いになります。

基本的には、数をこなしていけば、「コストは下がって品質は上がっていく」ものですが、設計者が残している設計資料(図面や計算書)の内容と、生産者の残している情報(生産はノウハウだけを残しがちだけれど、よい生産現場にはマニュアルが多い)で、コストと品質のバランスが異なっていくからです。

自動化が叫ばれる昨今でも、一品ものとなると、ほぼ職人技で生産されることが多く、その一品ものをリピートすると、完全に属人化されてしまっているのが現状です。

設計や開発を担当する人についても、これだけ情報化社会で、あらゆる情報は溢れているものの、一品ものから量産品まで幅広く経験のできているエンジニアは稀有な存在と言えるでしょう。

私としては、それはなぜか?を考えてしまうのですが、色々な断面で考察できる中から、注目しているのは、「設計者は、一品ものと量産ものと、その間のリピート品を、それぞれ経験した人が少ない」という点を挙げたいと思います。

だいたい新人の頃は、リピート品を任されることが多く、その時の経験から「前任者の残してくれる資料が少なすぎて苦労した」という意識を強く持ってしまい、その後のキャリアにおいて、一品ものでも量産品でも、とにかく資料をきっちり残したい、という思想に寄ってしまう傾向にあります。

実は、量産品になるほど、設計時の懸念していたこと以外の要素が後工程で浮彫になるため、品質は生産現場でコントロールすることが多くなります。

一方で、一品ものとなると、より顧客の求めるものは「品質よりもチャンピオン」になりますので、とにかく設計も必死にチャンピオンを目指さないといけないのに、リピート品を経験してしまった若手エンジニアは、なぜか「後任者のための無駄な資料作り」に必死さを出してしまいがちになります。

したがって、キャリアの早い段階でリピート品を経験してしまった人は、量産を扱うときには、ものすごく対応が遅くなり、逆に一品ものを担当するときには、物足りない設計をしてしまう、という傾向にあり、結果としてリピート品の専門家となっていってしまうのです。

これは、一例ではありますが、それぞれキャリアの前半で任された製品のライフサイクルに縛られて、その後の担当する製品の種類が絞られてしまうことは、よくあることです。

全てを経験した人は稀有な存在

多種多様なものに溢れている世の中ですので、その生産現場も多種多様になります。

学問としては、工学であったり、製図法であったり、統計学であったり、一般化されていますが、ものづくりのノウハウは、突き詰めていけば、各現場の人に宿っているものだと考えています。

何となくのすみわけとしては、研究というのは一品ものが多く、リピート品や量産化される過程を開発、完全な量産品を設計が対応する、という部門区分の企業が多いかと思います。

それに対して、生産技術や製造、サービスメンテといった部門は、製品が作られる上流のすみ分けや生産量に依存することなく、全製品を担当していることが多いような気がします。

これは、一概に言えないはずなのですが、企業規模や部門ごとの予算にも関係してくることになるので、自動車や家電量販は別として、それ以外の装置ものを扱うメーカーについては、概ね似た傾向になるかと思っています。

なので、冒頭にあった先輩技術者が言っていた「大きいものも小さいものも変わらない」という意見は、どちらかと言うと、生産を経験してきた人の意見であって、設計や開発を経験してきた人からすると、大きいものと小さいものの差よりも、製品ライフサイクルの差が大きい、というコメントになるのも今となっては分かる気がしています。

ABOUT ME
ゆうため
1978年生まれ 首都圏出身 地方都市在住 技術者として一部上場企業で20年勤務 独立めざして中小企業へ転職 コンサルティング会社からロボット会社を経て起業独立